イメージが人を動かす
人事院月報(1993年12月号)

情報が生かされるためには、それがどのような意味を持っているのかを見出し、脳に明確なイメージ・定義づけをする事。それが出来たとき初めて、行動へとつながっていく。

先日、講演が終わった後、ひとりの男性がいきなり親しそうに近づいて来て、「あの-、宮内先生に報告しておくことがあるんです。」と言われます。
初めてお会いする方なのに、何かしら?と思いつつ、話を伺ってみると、「先生の書かれた本をヒントに、表現をかえてみたら大成功でしたよ。」と言って、ニコニコしながら話してくれました。
その大成功とはこうです。
あるお寺の前に、いつも自転車がいっぱい置いてかれて、歩くのに困るほど。毎日毎日それの繰り返し。
たまりかねたその寺の住職が、『ここへは自転車を置かないで下さい』という貼り紙をした。しかし、その効果は全くなく、自転車はいつもの通りいっぱいになる。
困り果てた住職が彼に、何かいい対策はないものかと相談した。
そこで彼は、「こんな話が、ある本に書いてありましたよ。」といって、私の本のことを紹介したという。

〜バス停にタバコの吸殻がいつもいっぱい捨てられる。いくら掃いても掃いても、すぐまた捨てられる。そこで困った掃除のおばさんは貼り紙をした。『タバコの吸殻を捨てないで下さい』と。しかし、全く効果はない。逆に、その貼り紙の方が貼っても貼っても破られる始末。困り果てたそのおばさんは、ついに、こんな貼り紙をした。『掃除をする身にもなってください』。するとそれ以来、タバコの吸殻を捨てるのがピタッと止んだ〜
その話を聞いた住職は、一考。翌朝、こんな貼り紙をした。『ここは自転車の捨て場です』。
それ以来、一台も自転車が置かれなくなったというのです。

とかく人は自分の考えを一方的に相手に伝えようとして、ストレートに表現してしまいます。しかし、大切なことは、自分が伝えたいことが相手にどのように受け取られるかです。それによって相手が反応し、行動を起こす訳ですから。
つまり一方的にことばとしての情報を伝えるだけでは効果はなく、要は、その情報が相手の脳の中でどのようなイメージを形成するかです。
幸い人は、ことばをもつことによって、ものごとを抽象的にとらえることができるようになりました。だから、先のことを推測することもできるのです。

先程のバス停の掃除のおばさんも、住職も、目的達成のために、相手の脳のイメージをうまく活用して、連想から行動へと結びつけた訳です。
『大成功、めでたしめでたし』と、話をこれで終わらせてしまったら、それまでの事。それをどう活かすかが、人間の特性ともいえますので・・・・。
そこで、これを相手を動かすだけでなく、自分自身を動かすときにも、当てはめてみてはいかがでしょう。

世は正に情報化時代。ところが、いくら素晴らしい情報を得たとしても、それが生かされない限り、蛇口を締め忘れた水道の水のごとく、情報は無駄に流れていくだけです。情報が生かされるためには、それがどのような意味を持っているのか、脳に明確なイメージを形成することが大切です。それが出来たとき初めて、エネルギーも集約され、行動へとつながっていくのです。

ある企業の社長が、こんなことを言われていました。
「何をやっても成果をあげられる人間と、何をやってもうまくいかない人間の差は、物事の価値を見出せる人間と見出せない人間との差だ」と。
つまりそれは、そのものに意味を見出し、脳に明確なイメージ・定義づけをする事ができるかどうかにかかっているといえます。そしさらに、着実に成果をあげるためには、それに対していかに迅速に対応することができるか、その人の実行力・実践力にもかかっているといえます。

時代は次第に早いスピードで流れています。 このところの十年一昔が、いまや三年一昔とまでいわれます。
ということは、、『過去がこうだったから、これからもこうであろう』と、悠長に過去を基準にして将来を考えていると、大きくその判断を誤ることも起きてきます。また、過去に照らしあわせたスピード感覚で、もの事に対処していたのでは、手遅れということも起きてきます。

情報は、収集、分類、分析、判断が大事とは、誰もが了解しているところです。
では、具体的にそれは、どういったことを意味するのでしょう。私達が様々なことを実現していくための過程を考えてみると、次のような能力が必要といえます。それは、
「情報収集能力」=情報を集める能力。
「組み合わせる能力」=集まった情報から、どのような意味を見出すか。
「読み取る能力」=組み合わせ・意味づけした情報から、結果或いは将来をどのように読み取るか。
「迅速に対応する能力」=読みとった結果、それをどのように生かし、行動へと結び付けていくか。
以上五つの能力です。

情報過多の今日、何を知っているかといった知識の蓄積だけでなく、脳に入れた情報を、それはどういった意味をもっているのか、或いは、どういった意味を持たせられるのか、脳でじっくり考えてみる、そんな時間も必要と思うのですが・・・・。