私が選んだこの一冊

毎日新聞 1996年3/6(水)


 身近な本の中から「ぽのぽ の」(竹書房)を選んで持ってき ました。十年くらい前に、友だ ちから「これ面白いよ」といわ れて読んだのですが、ほのぼの と(本のタイトルは「ぽのぽの」 ですが)心の中に残っています。

表紙をめくったところにこう あります。
「森にはいつも、音楽がなが れています。/いろいろヘンな 仲間と/ラッコのぼのぼのは暮 らしています/いろいろカワイ イ、いろいろヘンな/その暮ら しを、ぽのぽのが日記にしまし た。/そんな、いろいろカワイ イ、いろいろヘンな/『ぽのぼ の』です。ですってば。」
「いろいろカワイイ いろい ろヘンだ」という見出しがつい ています。もうおわかりのよう にラッコの子どもの「ぼのぼの」 くんの日記の形をとったマンガ なのです。すべて四コマで一つ の話。話といってもたった四コ マですからこれといったストー リーが展開するわけではなく、 ちょっとした情景が描かれてい るだけですが、不思議に心があ たたまるのです。

たとえば、こんな場面があり ます。
あるとき「ぽのぼの」くん が何回分かのお弁当をつくって もらって友だちと出かけます。 ところが「ぽのぽの」は翌日のお 弁当まで食べてしまい、食べ終 わったあとで困って悩みます。 それをみた友だちが「先のこと をどうして心配するの?その ときになって考えればいいじゃないか」と言います。なるほど そうだ、と私はこのマンガから 教えられます。私はいつも先の ことばかり考えて、どうしよう どうしようと迷うことが多かっ たのです。一生懸命に何かに打 ち込んで、その結果、思い悩む ようなことが起こったら、その とき考えればいいのだ。「ぼの ぼの」くんの友だちのいうとお りです。そう思うと、心が楽に なりました。

またあるとき「ぼ のぼの」くんは道に落ちている 石や、はえている樹木をみて、石や木もここにあることに自分 たちの意志があるのだと考えます。まさに発想の転換だと思い ました。人間からみたら石や木 はそこにあるだけですが、彼ら はちゃんとそこに存在する意味 があるというのです。

私はこのマンガ(何冊もシリ ーズで出ています)から、ものの見方、考え方、生方を教わりました。